小学校のプログラミング必修化は将来のIT業界を滅ぼすのではないでしょうか

www.itmedia.co.jp

 

義務教育である小学校で学ぶ科目は、この世界で将来、社会生活を営んでいくために必要なものとすべきだと考えます。

例えば国語や算数は、これらを操る能力がなければ社会生活を営むことは極めて困難でしょう。理科は自然科学の面から、社会は社会科学の面からこの世界のありようを知ることで、社会生活を営むための大きな助けになります。体育は、無論のこと、生活において重要な、健康な身体を保つ方法を学ぶ意味があります。音楽や図工は、創造力を育み仕事や日々の生活に活かすため、家庭も、名の通り家庭での生活に必要な知識を学ぶ意義があります。

翻って、これらの科目とプログラミングは、同列に並べられるでしょうか。プログラミングは、社会生活を営む上で、上記の科目と同じくらいに必要なものと言えるでしょうか。僕は、とてもそのようには思えません。

強いて言うならば、プログラミングを学ぶことで、論理的思考力や問題解決能力を高められる可能性はあります。しかし、それらの能力は他の科目でも学ぶことはできますし、プログラミングがそれらを学ぶのに最良の教材だとも思えません。

 

そもそも、このようにプログラミング教育が推進されている理由は、上記の記事内の安倍首相の言葉を借りれば、若者に「第四次産業革命の時代を生き抜き、主導していってほしい」からだという話ですが、すべての若者がその第四次産業革命とやらに身を投じなければいけないというのでしょうか? 第四次産業革命を推し進めることが日本の将来にとって必要なことには異論はありません。しかし、すべての若者がメーカーやIT業界で働くわけではありません。むしろ、観光産業や第一次産業こそがこれからの中核となる産業である、という論調すら見受けられます。すべての子供たちに、プログラミング教育が、すなわちITのスキルが、必要だとは僕には思えないのです。

もちろん、これからは観光にしろ農業にしろ、ITを抜きには発展していくのは難しいでしょう。それは、おそらくあらゆる産業について言えることです。今の子供たちが大人になる頃には、今以上に、ITと無縁の生活を送ることはできないでしょう。しかしながら、それは全ての人がITの専門家にならなければいけない、ということではありません。今、パソコンやスマホがこれだけ普及したのは、それらが専門的な知識がなくとも扱えるように進化してきたからです。社会全体で見れば、ITの専門家は必要です。しかし、その他大勢の人、ITを使う側の人は専門的な知識は不要ですし、そうでなければ第四次産業革命なるものも実現しないでしょう。ITはあくまで道具で、その道具を製造の仕組みにどう適用していくか、ということが重要なのですから。そのためには製造の専門家も必要なことは当然です。それが観光や農業でも同じこと。

 

以上は、プログラミング教育が「必要ではない」という理由についての僕の考察です。実は、それとは別に僕が危惧しているのは、プログラミング教育によって、逆にIT産業の明るい将来像が閉ざされてしまわないだろうか、という点です。

高校で「情報」が導入されて10年以上経つのに、これといった成果が見られないのは、リンクした記事内でも触れられていました。その原因の一つは、そもそも「情報」という科目を的確に教えられる人材が不足しているからでしょう。今、プログラミングを小学校で必修化するとして、小学生にプログラミングを教えられる先生がどれだけいるというのでしょうか。プログラミングは、専門的な知識とスキルを必要とします。人に、しかも子供に教えるとなればなおのこと。結果として、プログラミングの授業は、今の高校の「情報」と同様、程度の低いものになるおそれが大きいと思われます。

単に程度が低いだけなら、まだましかも知れません。もともとコンピュータやプログラミングに興味のある子供ならば、自分で独学することも出来るでしょう。40を超えたおっさんの僕でさえ、プログラミングに初めて触れたのは小学生の頃でしたし、今の小学生なら、望めばプログラミングに触れられる機会も環境も十分にあるはずです。しかし、プログラミングが「授業」になると、それは成績がつけられ評価の対象となってしまうわけです。そのとき、悪い評価を受けた子供たちが、それ以降プログラミングに興味や学習意欲を持つでしょうか。まして、あの評判の悪い「小学校での掛け算の順序問題」のように、理不尽な(少なくとも小学生には納得のしがたい)基準によって評価された場合、プログラミングに対して悪い印象しか持たないのではないでしょうか。ひいては、ITという技術そのものを色眼鏡をかけて見るようになったり、忌避するようになったりはしないでしょうか。僕がこのブログ記事のタイトルに書いた「IT業界を滅ぼす」とは、こういうことです。

 

僕は教師でも教育の専門家でもなく、また子供もいませんので、これらの意見が的はずれである可能性も大いにあります。しかしながら、自分が多少なりとも関わっているIT技術というものが、どのように将来を担う子供たちに託されていくのか、興味深く見守っている中で、小学校でのプログラミング必修化という方針は極めて違和感を感じたので、ここに駄文をしたためました。

もしこの文章を読む物好きな方がいらっしゃれば、教育とITについて、少しの間でも考えてもらえれば幸いです。