セミが落ちていた。

玄関先に、セミが仰向けになって落ちていた。

指でつついてみると、弱々しく足が動いた。辛うじて生きているという感じ。つまんで身体を起こしてみるが、地面を歩くことさえままならず、まして飛ぶだけの体力は残っていないようだった。どこにでもいるような、茶色い羽のアブラゼミだ。本当なら、こんな風に指でつかまれるとうるさく鳴くのだろうが、その体力もないのか、それともメスなのか、鳴こうとする気配もなかった。

近くに木でもあれば、せめてそこにとまらせてやろうと思ったが、僕の家の周りは住宅街だ。田んぼや雑草の生えた空き地くらいならあるが、樹木は見当たらなかった。やむをえず、近くの電信柱に止まらせようとしたが、足をひっかけるさえ難しい様子だった。

それならばせめてもと、かつて生まれてきた土の上―と言ってもプランターの小さな鉢の上だがに置いてやった。セミは、弱々しいながらも6本の足で身体を支えながら、土の感触を確かめるように、じっとしていた。

 

夏の終わりと言うにはまだ少し早いが、君はその夏を全うしたのか。

恋をしたのか。子孫を残したのか。生きる意味を確かめることが出来たのか。

 

縁もゆかりもない人間にそのようなことを思われる筋合いはないだろうが、そんなことを、僕はふと考えて。

それから、僕の生きる意味を探しにいくため、車に乗って仕事に向かった。